サカタのタネ 採用サイト RECRUITING SITE

Special

プロジェクトストーリー

トマトの新たな
スタンダードをつくる。

2007年10月。トマト生産に求められる「収量・食味・耐病虫性」の3要素をすべて兼ね備えた、
画期的な品種が発表された。その名は、『りんか409』。
発売から10年以上を経た今もなお、市場に高く評価され、全国各地の生産者から支持を集めるトマトだ。
サカタのタネが、トマトの新たなスタンダードをつくることができたのはなぜか。その理由に迫る。

『りんか409』ができるまで

日本の最先端を行く、
豊橋で選ばれたトマト。

愛知県豊橋地区。太陽光利用型植物工場と呼ばれる環境を制御した最先端のビニールハウスが林立し、世界有数のトマトの産地となっている。品質は高いが、収量は低いとされていた日本のトマトの評価を、ここ豊橋は一変させた。意識改革、栽培方法の工夫、データの活用、品種選定。高品質で、さらに収量も多いトマト産地へと成長を遂げるまでに、数々の工夫がなされてきた。ハウスの大規模化、環境制御化、高軒高ハウスの新設など積極的な設備投資を行うほか、若い世代が経営を担い、科学的なデータに基づいた栽培管理を徹底している。こうして栽培された豊橋産のトマトは、市場において国内トップの評価を得ていた。そんな豊橋において、2003年、JAが拡大試作の白羽の矢をたてたのが、『りんか409』だった。

『りんか409』とは、サカタのタネが生み出した大玉トマトのF1品種だ。しっかりとした肉質でありながら、口の中でとろけるような食感と高糖度でコクのある食味に優れている。一方で、暑さ寒さにつよく、安定的に果実を実らせる。実が硬いため、輸送中や販売中の傷みが出にくい。特筆すべきは、実がつく房と房との節間が短いところだ。節間が短いと、落花も少なくなる。そのため、従来品種の1割弱多く実をつけることができるのだ。さらに、葉にカビが発生し、光合成が不十分となる「葉かび病」や、葉の枯れ先から灰色かび病を誘発してしまう「葉先枯れ」といった病気や生理障害の耐性も持っている。いわば、「収量・食味・耐病虫性」をすべて兼ね備えた夢のトマトだ。その誕生までには、紆余曲折があった。

誰にも、
応えられなかったニーズ。

トマトは野菜の中で一番栽培が難しいとされる。特に大玉トマトは、大きな実をつけながら、葉や幹も維持していかなければならないため、プロの生産者でも栽培が難しい。「つくりやすさ」は収量に次いで、常に課題であった。さらに、地球環境の変化にともない、以前にはなかった病気も蔓延するようになっていた。差し迫った課題は、栽培過程で発生する「葉かび病」と葉先枯れによる「灰色かび病」の2大病害への対処だった。一度病気を発症するとハウス内にカビ胞子が残るため、翌年もまた同じ病気を発症することになる。トマトの生産者は、品質維持と収量確保に、毎年のように悩まされていた。産地の課題は明らかだったが、新品種の開発は難航を極め、どの種苗会社も解決策を導き出せずにいた。サカタのタネが擁する研究拠点、君津育種場でも、2大病害への対処をコンセプトに掲げ、品種の研究開発が行われていた。チームを指揮していた榎本は、こう振り返る。

「花、野菜のさまざまな品目において、サカタのタネは優れた品種を生み出してきた。しかし、ことトマトにおいては、近年代表作と呼べる品種が少なかったと思う。毎年、播種の時期になると、試作された品種の生育状況や評価を鑑みて、一年間栽培する品種が決定される。「今年のトマトは、○○○でいこう」。そこに、「サカタのタネの品種の名前が挙がることはそれほど多くなかった」今年のトマトは、◯◯◯で。そこに名を連ねるトマトを、何としても生み出したい。その気持ちは、皆同じだった。榎本率いる研究チームのメンバーや、病理、育種工学などのあらゆる部門、ひいてはサカタのタネ全社の手腕が、試されていた。

農林水産大臣賞受賞。
栄光からの再スタート。

※1全日本野菜品種審査会:販売中あるいは育成途中の品種の中から、優良品種の選定を行う審査会。

※2 農林水産大臣賞:本審査会での1等特別賞受賞品種の中からさらに選ばれた、とくに優秀な品種にのみ贈られる賞。

『りんか409』の発売に先立って、1998年にサカタのタネは、大玉トマトの新品種『麗夏(れいか)』を世に送り出す。『麗夏』は、「耐裂果性」「収量性」に有効な優れた品種として、その年の全日本野菜品種審査会※1において、農林水産大臣省を受賞※2 。「サカタにもトマトがあるじゃないか」と関係者に言わしめた。しかし、予想に反して市場や生産者の反応は冷ややかだった。果実が硬い分、日持ちはするが、『麗夏』は従来のトマトと比べると硬すぎた。色目やテリも違えば外見も旺盛。一般的に「トマトといえばこうだ」という常識から、あまりにもかけ離れていた。榎本いわく「前衛的すぎた」のだ。1996年から開発に着手していた『りんか409』も、『麗夏』の発表後、若干の方向転換を余儀なくされた。果実は『麗夏』よりも少し軟らかく、食味も従来のトマトに近く、なおかつ、2大病害を克服した品種をつくる。新たなコンセプトのもと、再スタートが切られることとなった。

※1全日本野菜品種審査会:販売中あるいは育成途中の品種の中から、優良品種の選定を行う審査会。

※2 農林水産大臣賞:本審査会での1等特別賞受賞品種の中からさらに選ばれた、とくに優秀な品種にのみ贈られる賞。

地道の果てに実るタネ。

育種の核となる仕事は、研ぎ澄まされた新たな「親」を産み出すこととその「親」同志、最適な組み合わせを見出すことだ。従来のものを改善するといった、品種改良はしない。なぜなら、優れた「親」同士の交配が、優れた「子」を産むとは限らないからだ。一見、不出来と思われるようなタネにも、優れた親をつくる素材として検討の余地がある。育種家自身が幾度となく現場に足を運び、世界各地から採種してきたタネ、開発途中に生まれたタネ、ありとあらゆる膨大な遺伝資源。その中から、選び、掛け合わせ、評価し、また、掛け合わせる。タネをまく人のニーズの、一歩二歩先にある価値を産み出すために日々、タネと、畑と向き合う。『りんか409』が出来上がるまでのプロセスを、「壁という壁は、特に感じたことがなかった」と榎本は振り返る。しかし、『りんか409』は、開発の過程で偶発的に生まれた奇跡の賜物ではない。サカタのタネが半世紀以上にわたりトマトの品種開発を重ねてきたノウハウが、開発の糧となったのだ。こうして、『麗夏』の発表から4年後の2003年、地道な努力の果てに『りんか409』は実った。

サカタのタネの快進撃。

その年、豊橋地区での拡大試作が始まった。栽培が始まるやいなや、『りんか409』は、豊橋地区の生産者たちを驚かせた。「葉かび病」と「葉先枯れ」に強いだけでなく、実の硬さがしっかりしており、それでいてジューシー。従来の品種は、春以降の温度が高い時期に、赤の着色がまだらになりやすい欠点があったが、『りんか409』は実全体が均一にきれいに赤く色づく。トマトの状態管理が難しい夏の暑い時期も、『りんか409』は堅牢に育ち、咲く花の質も安定する。暑さへ抜群に強い性質をもつ温暖化対応品種として、注目を集めた。その年の冬、生産者たちは、再び驚かされることになる。それまでの常識では、暑さに強い品種は寒さに弱く、冬には生育が悪くなるものとされていた。ところが『りんか409』は、寒い時期も生育が止まらず、実が豊満に育ったのだ。さらに、従来品種よりも、実がつく房と房との節間が短く、同じ軒高のハウスにおいて1割弱多くの房をつけることができた。単位面積当たりの収穫高となる収量が通常の倍以上、10アール当たり50トンを超える質の高い大玉トマト栽培を実現したのだ。単位面積当たりの産出額は、世界トップクラスに匹敵する。こうして『りんか409』は、トマトの新たなスタンダードとして広く知られるようになっていく。

新たな課題、新たな品種。

育種家は、新たな品種を生み出す度に、新たな課題と対峙することになる。サカタのタネがトマトの育種をはじめて半世紀以上。これまで日本ではみられなかった新たな病気が、いま生産者を悩ませている。その病気とは、「黄化葉巻病」。主に熱帯および亜熱帯地域で見られるウイルス性の病気である。サカタのタネも、「黄化葉巻病」の耐病性を持ついくつかの品種をすでに開発してきた。しかし、『りんか409』の収量性には遠く及ばない。「黄化葉巻病はしっかり管理することである程度、抑えられる。黄化葉巻病の耐病性がなかったとしても、やはり収量性の高さから『りんか』の方に軍配があがりますね」と、豊橋地区・元トマト部会長の大竹氏は語る。毎年、新品種が発表される中で、10年以上も前につくられた品種がいまだに、大竹氏の持つハウス内の3割を占めている。『りんか409』がそれだけ他を圧倒する品種であった一方で、『りんか409』以降、課題の核心をついた品種が生まれていないと、厳しい見方もできる。しかし、なぜか、トマトの研究チームの表情に、苦悶の色は見えない。「黄化葉巻病については、いまはまだその場しのぎのような品種しかない。けれど、もうすぐ新しい品種で期待に応えられますよ」と、榎本は笑みをこぼした。新たなトマトで、サカタのタネが市場を席巻する日も、近いのかもしれない。

まかれた、未来のタネ。

新しい品種の開発には、5〜10年単位の時間を要する。一人の担当者で出来ることは限られるため、次代を担う後継者の育成と体制作りが極めて重要となる。先人からの着実な引継ぎが、安定した育種展開となり、さらに後人へ引継がれることで、育種の進展につながる。他部門を含めた横のつながりと、時間軸としての縦のつながり、両方が育種力につながる。そのために、サカタのタネが力を入れているのは、育種を継続できる仕組み作りである。『りんか409』の発表のあと、挑戦の遺伝子は榎本から岡田へ受け継がれ、これまで岡田は『麗旬(れいしゅん)』『麗月(れいげつ)』の開発に尽力してきた。「前任者を否定して、一から自分でやろうとするブリーダーもいるけれど、それでは失敗する」と岡田は言う。「世界一のトマト育種メーカーになるのが、入社以来の私の夢。自分一人で頑張っても限界がある。トマトの育種だけではなく、チームの育成も大切な仕事だと捉えています」岡田はそう語ってくれた。未来のタネは、すでにまかれ、新たに芽吹き始めている。榎本、岡田の二人の屈託のない笑顔から、そう読み解けた。

(この内容は、インタビュー当時のものです。)

取材に協力してくれた皆さん

愛知県豊橋地区トマト農家
元トマト部会長大竹 浩史

第47回日本農業賞の「集団組織の部・大賞」に選ばれるなど、日本農業の確立を目指して、意欲的に経営や技術の改善に取り組んでいる。

株式会社サカタのタネ
執行役員 研究本部副本部長兼
君津育種場長兼育種第1課長榎本 真也

1990年入社からサカタのタネ歴代のトマトの育種に携わる。『りんか409』の研究開発においてチームを指揮した。

株式会社サカタのタネ
君津育種場育種第2課岡田 佳丈

2007年入社から榎本の元でトマトの育種に携わる。榎本のDNAを受け継ぎ、『麗旬(れいしゅん)』『麗月(れいげつ)』の育種に携わり、現在もさらなる品種開発に尽力している。

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